ディスカッション本編
コーディネーター 小林一郎ー氏 熊本大学大学院教授
岩国市役所主催 錦帯橋国際シンポジウム 、2008年1月27日 岩国観光ホテル
岩国市役所配布(2008年)、岩国中央図書館所蔵
(1〜10頁) その7
第二部 パネルディスカッション
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ディスカッション本編
パネリスト
エリック・デロニー:米国、技術と工業遺産出版社社長
ミシュラン・コット: 仏国、nantes大学教授、イコムス評議委員
大熊 孝: 新潟大学教授
依田 照彦: 早稲大学教授
佐々木康寿: 名古屋大学大学院教授
中村 雅一: 岩国伝統建築共同組合理事長
コーディネーター(小林一郎ー氏)から感想が2つあります。
1 石橋は半円で上に荷重がかかると一番下に力が伝わり地面が支えます。扁平にすると両側から押して、綺麗なアーチにしないと変な箇所が歪む。
日本の石橋は最大は27m〜28mだが、錦帯橋は35mです。しかも扁平なアーチ構造で奇跡的です。
ヨーロッパは石でこれを造ろうとして2000年かかっています。日本では300年前にこれができており、世界に誇れる構造的な特徴です。
2 錦帯橋は何種類かの木材を使用箇所に応じてうまく使い分けており、真実性という意味では非常に大事です。
それから、存続を永久に保証できるかという観点も気になります。
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(パネリスト) 大熊 孝氏
錦帯橋は、錦川の上手く付き合ってきた処に大きな価値があります。放水路で洪水の水を他に流す案も考えられるがやっていません。
(WEB 編集者意見:錦川は防衛上外堀の役割があり、かつ川下に特産の蓮田があり、常時水流を確保する必要があります)
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(パネリスト) 依田 照彦氏
日本橋のアーチ橋は重さが1000トンを超えていますが錦帯橋は40トンです。これで、ともに1000人(60トン)が
渡る事が出来ます。
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紀元前19年、ローマ帝国がフランスのがルドン川に掛けた水道橋は2000年経過しているが、今も使われている。
錦帯橋は木材が腐敗するため定期的に架け替えているが、創建時のままという真実性は保障できるか。
技術伝承はどのようにしているか
(パネリスト) 中村 雅一氏
錦帯橋の架け替え工事は創建時の図面をベースに10代から60代の大工が協同で作業するので、
ベテランから若手に技術が伝承される。若い大工も墨付けを行っており次の架け替えでは自信を持って作業を行うことが出来る。
(パネリスト) 大熊 孝氏
木材が約20年で腐るので定期的な架け替え作業が必要になり、これで結果的に技術伝承が可能になっていると考えます。
一方、錦帯橋は樹齢200年の木材が必要で、計画的に木材を育てていく「錦帯橋みらい構想検討委員会」のような
活動が必要です。
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石材は1万年以上継続しないですが、錦帯橋の場合、人間に意思さえあれば永遠に継続する
(コーディネーター) 小林一郎ー氏
錦帯橋は、材料が木材で人材も地元大工なので永遠に継続します。
しかし、それを保障する資金はどうですか。
(パネリスト) 大熊 孝氏
錦帯橋の入橋料で確保しています。(注:江戸時代は吉川藩による橋上げ税が徴収されていました)
現状年間、70万人〜100万人が入橋料をはらってます
(コーディネーター) 小林一郎ー氏
先ほど、佐々木先生が木材の転用をおっしゃってましたが、もっと説明してください
(パネリスト) 佐々木康寿
例えば、第三橋を解体して使える木材を第四橋に利用できないかという提案です。
「材料の真実性」が問題だが、使用されているヒノキ、ケヤキ、アカマツ、は架け替えても変わっていない。
構造や形態も変わっていない。
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(コーディネーター) 小林一郎ー氏
「材料の真実性」とは、「300年前使った材料がいくつ残っているか」が世界遺産では問われます。
錦帯橋は4,5年前に出来た橋」といえます。
日本の文化庁は「その点が弱い」と材料の真実性に疑問を持っていますが、コット先生の考えを聞かせてください。
(WEB 編集者意見:木材の真実性ばかり議論しているがオカシイ。橋脚と河床地下3層の石畳、無数の松の杭は創建時のままです。
橋脚の側面の石は、キジヤ台風で崩れた石を集めて壁面にしています。木橋は、川ノ上、空中に組まれた訳ではありません。
先ほどのビスカヤ橋の例だと、改造したゴンドラや動力源ばかり問題にして、橋脚や基礎、地域の背景などを見ていない)
(パネリスト) ミシュラン・コット氏
そもそも真実性とは何かを考えるべきです
先ほどのビスカヤ橋のゴンドラ動力源は5回変わり真実性はありません。しかし、ビスカヤ橋を上手く運営するため
それぞれの時代で最善の解決策を取った結果の変更です。
世界遺産としての評価は大きく2つに分けることができます。
(1)建築物としての評価
最初に誰が作ったのか、どれだけ保たれているか
(2)建築技術
最初の技術を尊重し、少しずつ良くしていくのは技術遺産に関しては重要なことである
(コーディネーター) 小林一郎ー氏
錦帯橋は「洪水と付き合いながら渡る機能をより良くしてきた」経緯があります。
技術的に良くなることは真実性を深めていると考えます
(パネリスト) 大熊 孝氏
錦帯橋は昭和25年、キジヤ台風で流れたとき橋脚を1m高くしています。錦帯橋の真実性が洪水と向き合うことであれば
問題は無いわけです。ミシュラン・コット先生の話は、非常に後押ししてくれます。
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(コーディネーター) 小林一郎ー氏
ミシュラン・コット先生の話では、世界遺産でやってはいけない事があります
(1)近くに駐車場を作ってはいけない
(2)来訪者によって、交通が混雑することは工夫して避けなさい
(3)展示室があって、橋の歴史や様々な情報を伝えているか
(パネリスト) 大熊 孝氏
今の錦帯橋の下流の駐車場は景観を壊しているので問題と考えます。別のところに駐車場を設けるべきと考えます
(パネリスト) 中村 雅一氏
錦帯橋の専用資料館がありません。架け替えの資料や市が管理している資料などを展示・管理する資料館があるとありがたいです
(コーディネーター) 小林一郎ー氏
錦帯橋1/5モデルを見て、実物を見ると理解が深まると思います。
(パネリスト) 依田 照彦氏
早稲田大学は5年ごとに錦帯橋の健康診断をやっています。
地元の高校生120名に協力して頂いているので大変なデモになっています
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其の時言っているのは、この橋は渡るだけでなく美しい。下から見ても美しいし、上から河床の敷石を見ても、欄干の影も美しい。
(パネリスト) エリック・デロニー
アメリカには約470の木造橋が残っているが錦帯橋のような橋はありません。しかも構造が剥き出しで現存しているのは奇跡的です。
世界遺産登録に期待が持てます。
アメリカの木橋は約100年の歴史ですが、錦帯橋は300年以上前の技術が今まで伝わっており、驚くべきことです。
今後も伝承するため資料を揃え探しておくことが大事と考えます。
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(パネリスト) ミシュラン・コット
人類の歴史の中で、アーチで長い橋を作るのは重要なことでした。錦帯橋と同じような橋、似たような橋が日本国内、東アジア文化圏に
あるか比較して下さい。また16世紀に架けられた木橋、アーチ構造の石橋と比較して、錦帯橋がそのような価値を持つか
明らかにしておくことが大事です。世界遺産登録に向けて技術の伝承があることが非常に心強いです。
(コーディネーター) 小林一郎ー氏
技術の伝承だけでは駄目かと考えてました
(パネリスト) エリック・デロニー
世界遺産登録に向けて橋だけにこだわらないことです。橋の歴史的、技術的な流れの中で捉えるべきです。
錦帯橋を造った技術がアジア・中国との関係や、国内木造文化の中で錦帯橋の技術を比較・検討して価値を見出すことが大事です
(パネリスト) ミシュラン・コット
ビスカヤ橋で話しましたが、橋そのものがコアゾーンで周りがバッファーゾーンになっていることです。
橋の形は図面だけで決まるのではなく、周りの地形との関係で決まっています。どのような景観の中に、どんな橋が架かっているかが
大事です。これら背景を世界遺産申請の中で書くことで質が向上します
最後に、橋の価値を伝える方法として、錦帯橋の縮小モデルや型板を展示することは、とても大切です。
(コーディネーター) 小林一郎ー氏
最後に4人の方から、簡単な感想をお願いします
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(パネリスト) 中村 雅一氏
技術の伝承という面では大工に目が行きがちですが、石工、板金、鍛冶屋、木材屋さんなど多くの人がいます。
それら全部を技術の伝承にすれば広い目で考えられると思います。皆さんにもっと錦帯橋を好きになって欲しい
(パネリスト) 佐々木康寿
錦帯橋は、錦川の洪水に流されない長いスパンを飛ばすかという観点で、当時の人が一所懸命考えた結果です。
それまで日本にあった神社仏閣・お城・お屋敷から似つかわないアーチ形状のものが突然現れたのです。
今日、ミシュラン・コット先生の話を聞いて、ビスカヤ橋は示唆に富んでいて、これを参考にすれば理論武装できると思いました
(パネリスト) 依田 照彦氏
同感です。無形のものの価値を伝えていただきたい。「愛橋心」が大切だ。
(パネリスト) 大熊 孝氏
早稲田大学の依田先生に錦帯橋はアーチであると立証していただき有難うございます。
木材が圧力で縮むことを勘案して錦帯橋を造っており、木は橋に形を変えても生きてるなと思いました。
錦帯橋が今も皆さんの生活の中で生きていることが大事です
(WEB 編集者意見:岩国も現在は車社会で一家2台の車を保有しており、錦帯橋を生活の中で渡るのは通学する横山の小学生くらいです。
しかし、錦帯橋を中心にした文化は今も残っており春の花見と菖蒲園、時代祭り、夏の花火大会、秋の紅葉谷、冬の初詣と鉄砲隊初稽古、
また、お茶会、お香会、座禅会・写経会などが随時あります。武具甲冑・古文書を展示する美術館にも時々行きます。
たまにしか来ない観光客は夜間ライトアップした錦帯橋や雪景色、年数回洪水の時の錦帯橋、遠くから見えるお城など、本当の
錦帯橋の姿を知らないと思います。都会にいる友人は花見の時は岩国に戻ってきます。これらは先人が残してくれた大切な財産だと考えます)
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