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第2部 パネルディスカッション
錦帯橋の唯一性を問う!!
コーディネーター
日本大学理工学部教授 伊藤 孝
パネリスト
北京大学建築学研究センター
方 翔
日本イコモス国内委員会事務局長
矢野 和之
熊本大学大学院教授
小林 一郎
福岡大学工学部准教授
渡辺 浩
岩国伝統建築共同組合理事長
中村 雅一
岩国市長
福田 良彦
岩国市役所主催 第二錦帯橋国際シンポジウム 、2010年11月14日 岩国観光ホテル
岩国市役所配布(2010年)、岩国中央図書館所蔵
(29〜55頁)
第2部 パネルディスカッション 錦帯橋の唯一性を問う!!
コーディネーター 日本大学理工学部教授 伊藤 孝
単ページ 29
日本大学理工学部教授 伊藤 孝
錦帯橋と同じ構造物は中国大陸やアメリカ大陸、ヨーロッパ大陸になく、日本独自に発達した橋です。 真実性があり世界に唯一と主張するだけでは世界遺産になりません。地元でどのように維持管理・保存していくかという体制づくりをしているか イコモスの方々はみている。
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進め方
各パネラーに5分話していただき、その後会場との質疑応答、さらにパネラー間の議論を行います
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熊本大学大学院教授 小林 一郎
第一回のシンポジウムの時、350年前のものが残っていないので骨董的価値があるか心配していたが、エリック・デロニー(米国、 技術と工業遺産出版社社長)とミシュラン・コット(仏国、nantes大学教授、イコムス評議委員)は価値があるといってくれました。
本日の第二回シンポジウムで方先生(北京大学建築学研究センター)は錦帯橋は中国の古橋と外見は似てるが構造は違うと言ってくれました。
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真実性について
技術の歴史に関するシンポジウムが9月、フランスで開催されたが、「技術そのものに真実性があり、それが受け継がれていること自体に価値がある」と 彼らは言っています。「物を作る能力そのものが300数十年伝わってきているから、これこそ世界遺産である」という話です。 また、ヨーロッパの人々は錦帯橋を知りません。英文のホームページを作成するなど海外に情報発信すべきです。 「日本のあの橋とどうちがうの?」「日本の寺院の構造とどう違うの?」ということを歴史背景、建築史を交えて外国人に理路整然と説明する 必要があります。中国の橋は川を一跨ぎしているが、錦帯橋は5回、ぴょんぴょんしているが、何故か?が疑問です
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福岡大学工学部准教授 渡辺 浩
橋を専門にしており、錦帯橋が中国の影響をどの程度受けているか、中国で調査してきました。
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中国の木製アーチ橋
注、景観設計社(代表取締役 平野 暉雄)が日本・中国・韓国の古橋を網羅的に調査しており、中国独自の木製アーチ橋と西洋文化の 石造アーチ橋が主であり、渡辺先生は中国独自の典型的な木製アーチ橋の例に議論を行います。
参考:「橋を楽しむ」2014年出版 岩国市立図書館蔵書
中国の「木拱廊橋」で、明や清の時代に多く建てられている。
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中国の古橋と錦帯橋との相違点
中国の古橋は2系統の丸太があり、1本1本が別々の役割を持って梁・桁のように全体を支えている。 錦帯橋は各木材がリブとして全体に組み込まれ、全体で1つの役割を持っている。根本的に構造が違う。 仮に350年前の岩国の人が、中国の古橋を見ても錦帯橋に結びつくとは考えにくい
中国の古橋との相違点
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アーチ構造
平らな紙は上から押さえると曲がるが、半円状にすると上から押さえても曲がりにくくなる。これがアーチ構造である。 石造のアーチ橋、鉄筋のアーチ橋、木製のアーチ橋の写真である
アーチ構造
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湾曲集石材
前記、木製アーチ橋は、湾曲集成材を使っている。一定のカーブで曲がっている木材を探し、これを集成するが、曲がった木材を探すのが困難である。 錦帯橋は短い木材を少しずつ傾けながらカーブを造っているのが素晴らしく、独創的である。
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岩国伝統建築共同組合理事長 中村 雅一
江戸時代は吉川家お抱えの棟梁(役人)が錦帯橋架け替を行ったので問題なく技術継承が出来た。 明治以降は民間の大工に頼ることになったが、民間の大工は生計を立てる為、他の仕事もしており、 架橋に関するノウハウ蓄積などに専念するのは困難である。 これらはは岩国市の行政の中で公務として実施し、また架橋期間が空くと錦帯橋架け替えの実務経験消えるので、 技術伝承の観点では20年に1度くらいのペースで架け替えを行うのが重要である
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日本イコモス国内委員会事務局長 矢野 和之
イコモスは全世界で約1万人、日本国内で380人の専門家がいる。 文化庁は、錦帯橋は新しく造り替えたので真実性がないと考えており、橋に町割などのシナリオを考えなさいと言っている。 日本イコモスと文化庁は独立しており、文化庁の下にある機関ではなく完全なNGOである。中立の立場で判断している。
単ページ 40
錦帯橋は技術遺産か
誰が見ても世界遺産という物は既に、出尽くしている。 単純明快な価値を発見して、顕著な普遍的価値を証明しなさいという流れになっている。 錦帯橋は風光明媚な名勝地だが、景色が良いだけでは世界遺産登録は無理です。 イコモス内には様々な意見があり、一枚岩ではないが、技術遺産部門から、錦帯橋を技術遺産として登録したらとの 提案を受けている。
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岩国市長 福田 良彦
真実性の疑問を払拭するため、英語版ホームページ作成などで世界に向け情報発信します。
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北京大学建築学研究センター 方 翔
写真では川を一跨ぎにする橋が多かった。錦帯橋のように多連式アーチ形の橋は造るのが難しいか(質問)
一連式か多連式にするかは地形によって決めます。水から30m高いところに造るなら一連式にします。 多連式はスパンが短いので造りやすい。橋梁の歴史から見てスパンの最大は37mです。
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日本イコモス国内委員会事務局長 矢野 和之
技術遺産が中心になると考えるが、良い風景も一つプラスになる。 メインの価値は単純明確で中心におき、登録基準の6つの基準のほかの要素も加味するのが近頃、行われている。
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福岡大学工学部准教授 渡辺 浩
350年前の橋が、今も目の前にあり、それを脈々と維持されてきたことも大きな財産です
岩国伝統建築共同組合理事長 中村 雅一
技術の継承のことですが、私は平成の架け替えで図面をひいたので今、岩国で全ての資料がなくなっても同じ図面を起こす事が出来ます。 後世の人が出来るようになるには文書や図面を残すことです。
日本イコモス国内委員会事務局長 矢野 和之
伊勢神宮は20年置きに遷都しているが、20年間隔だと次の世代に技術移転できる。支える技術集団がいるという事は真実性がある。
単ページ 45
伊勢神宮には青年・壮年・老年の3世代の職人がいる
3世代で廻すので常に技術集団がいる。また、伝統技術情報を集約する研究センターを岩国市が造るなども大切です。
岩国市長 福田 良彦
錦帯橋世界文化遺産専門委員会は既に設置していますが、さらに今年の4月、錦帯橋世界遺産推進室を設置しました。 真実性を継続的に維持するシステムの提案は参考になります。
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新潟大学名誉教授 大熊 孝
参加者@質問:橋脚の重要性は認識しているか
錦帯橋みらい構想検討委員会では木材調達のため森を準備すべきと考えています。木が育つまでは全国から調達が必要だ。
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平成の架け替えの時、文化庁が橋脚ですが昔のように空石積みにしたら
と言ってきたが、阪神大震災のような地震の 懸念があり、現在の橋脚には井筒・コンクリートが入っており、まだ持ち堪えそうなので現状どおりとしました。 それと橋脚の高さが昔より1m高くなってますが今の錦川の洪水の出方を考えるとこれで良いと考えた。
参加者A質問:錦帯橋と周囲の景観確保
河原の駐車場は、半分くらいは昔どおり河原にもどすべきと考えます。それに城山に携帯などの鉄塔が建ちすぎです。 各社バラバラに建てるのではなく目立たないように集約すべきと考えます。
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参加者B質問:錦帯橋上部の木造部分だけでなく下部の橋脚も遺産構造物として重要なので、橋脚の一つでも昔の空積みに戻したらどうか
参加者C質問:情報を一元化する組織を市役所に設置すべきと考えます。
参加者D質問:錦帯橋の素晴らしさを常時、具体的にアピールする資料館施設を造ってください
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早稲田大学教授 依田照彦
錦帯橋が素晴らしいのは木製アーチ構造ですが次の特徴があります
(1)隔て石
世界の橋で隔て石があるのは錦帯橋だけです。日本の猿橋や日光の神橋にもありません。多連にして隔て石を設ける発想はユニークです。
(2)大棟木
石橋でアーチを造る時、キーストーンの寸法は決まっています。しかし錦帯橋の大棟木は木材の乾燥やしなりを考慮して現場の棟梁が最後、寸法を決めますが、 理論的に算出できません
(3)カスガイの位置
年代によって向きが違います。普通のカスガイと使い方が違う
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熊本大学大学院教授 小林 一郎
リブアーチの木組みで多連の橋が17世紀以前にあったかと言う質問ですが、「それは無い」と言えます。
錦帯橋の良さを本当に理解しているのは専門家だけなので、地元や東京、世界に分かり易く情報発信すべきです。
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北京大学建築学研究センター 方教授
錦帯橋の唯一性は技術にあり、説明が難しいのでゆっくりやって行くしかないと考えます。 世界の橋梁はヨーロッパ式と中国式の2種類あります。 第一回目のシンポジウムでフランス・アメリカの権威の方がヨーロッパ式ではないと言われました。 今回の第二回目のシンポジウムで、中国には錦帯橋の構造を持つ橋は無いと言えます。 つまり、世界的に見て錦帯橋はユニークな橋です。 17世紀、明の亡命僧侶、独立が建設に関係したようですが、企画・管理にかかわり技術には関係なかったと考えます。 西湖周辺の景色を真似たと考えます
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文献によると中国・北宋には中国式木造アーチ橋があったと記載されていますが、1980年以前の木造アーチ橋は無くなっています。 技術の断絶が起きています。錦帯橋はこの技術伝承を確実に行うのが重要です。中村棟梁を「無形文化財」にしてもいいのではないですか。
日本イコモス国内委員会事務局長 矢野 和之
市民の方々がバラバラではなく、1つの組織で技術伝承と情報発信を行ってください。 世界遺産にはバッファーゾーンという考えがあり、環境保全が重要です。文化財単独ではなく周辺とのセットでみています。 横山や町屋側にも良い建物が残っています。これらを総合的に観光資源として捕らえ滞在型に移行するべきでしょう
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岩国市長 福田 良彦
錦帯橋の「唯一性」がしっかり認識できました。 錦帯橋構築用木材は長期的には昔のように錦川流域で確保できるように取り組んでいます。 また、資料館の必要性は岩国市として十分認識しています。世界遺産に向けて17万人の署名が集まっています。皆様と一緒に頑張りましょう。
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コーディネーター 日本大学理工学部教授 伊藤 孝
今回は3つのポイントがありました
(1)唯一性について技術的に明らかになった
(2)岩国市長が世界遺産実現に向けて宣言しました
(3)文化庁には技術遺産に絞って活動しなさいとの助言を頂きました
次回は東京で開催します
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